中川裕貴による2020年の様々なモノ/表現のベストヒット記録。
自分の2020を振り返ると1月、2月烏丸ストロークロックの舞台で伊丹、東京をやり、三重と広島は中止になりました。この辺りで盛大に体調を壊し、なんとなくまだその影響下にいるような気がします。年を取ってきたと感じる昨今。また2月東京はkndさんとのDUO、またju seiとのコラボレーションも忘れ難い楽しい記憶です。お二方とは場所問わずまたご一緒したいと思ってます。3月~5月は仕事(SEみたいなの)から突然沸いてきた様々なもの(リモートワーク支援とか)をこなし、並行してロームシアター京都での「アウト、セーフ、フレーム」の準備に取り掛かりました。日程や会場が変更したり、途中様々なとん挫がありながらもなんとか7月末~8月頭の上演に漕ぎ着けました。この公演の反省が途中になっていてそれも並行して今書いてますが、今後の人生であるかわからないほどの経験(場所が人を育てるなと思いました)、また何より楽しかったことを覚えています。関係者のみなさんほんとありがとうございました。そして9月は山月記で豊岡演劇祭。これも屋外での本当に貴重な経験ができました。あの気候、夜空、場所、作品、ヒト。ここまで様々なものが重なる上演に立ち会えて幸運でした。山月記はそのあと11月に京都でもやって、また新しい視座もみえてきたので、今後も取り組んでいこうと思います。あと11月下旬は大友良英さん、山内弘太さんとのイベント。大友さんとのDUOが特に感触が残っています。そして12月は烏丸ストロークロック「祝祝日」で演奏を。なおこの上演(ライブ配信)はまだyoutubeにあるので良かったみてください。引き続きご支援もお待ちしております(来年の沖縄公演が延期になってしまいましたので)。
そして2020年ベスト。例によって長いです。
<音源>
1. Ennio Morricone - I Film Della Violenza
2. Ennio Morricone - Holocaust 2000
3. Bruno Nicolai - Espressioni
4. Ennio Morricone, Bruno Nicolai - DIMENSIONI SONORE 1
5. Aphex Twin - Manchester(EP)
6. Juan D'Arienzo - El Rey del Compás
7. Various Artists - I Am The Center: Private Issue New Age Music In America 1950-1990
8. Various Artists - Excavated Shellac: An Alternate History of the World's Music
1はエンニオモリコーネの75年のレコード。サスペンス、マカロニウェスタン、犯罪映画など、Ennio Morriconeがサントラを手掛けた、暴力に纏わる映画から選曲された名曲の数々が収録。これを最初she ye ye(レコード屋)のWEBで視聴してから猛烈に欲しくなり、discogsで高額なものを落とそうとする→思い直す→買おうとする・・・を繰り返したのち東京のレコ屋にあるのをみつけ、2月の東京訪問の際に買いました。映画でいうと「狼の挽歌」「エスカレーション」「 Grazie zia 」「シシリアン」などの音楽が素晴らしかったです。
2もモリコーネ。これはタイトルもなかなか(邦題は"悪魔が最後にやってくる!")、映画は見てないけれど内容がたいがいな感じ(原発プラント社長の息子に悪魔が乗り移ってめちゃくちゃするみたいな感じ?)のようですが、音楽は素晴らしい。特に冒頭のテーマ曲みたいなので声が入ってくるところが鳥肌もの。モリコーネは散々めちゃくちゃやってもちゃんとメロディーとか構成で回収?してくる感じが憎たらしいが好きです。
3も1のレコードの中の曲でアレンジなど関わっているブルーノニコライの単独盤。72年の作品が今年再発されてそれを(このレーベルの、もっと再発してほしい)。単独でも映画音楽が多く、それが非常に良いニコライですがこれは違うよう。ただこれもとても良かった。特に近年自分が非常に魅力的に感じている映画音楽にある「様々な音やイメージが同じ時間に混在した感じ、ひとつのトーンに回収されない感じ」がある素晴らしい曲の数々。1もそうだけど、これくらい混乱したものを聴きたいのだけど(いろんなジャンルの音があるのだれど、それが”映画”を目指すためなのかどこか素晴らしい乱調、混雑具体を伴っている感じ)、なかなか他にこういうのがないです。
4も同じくこの二人で。こちらはライブラリーもの(RCAの為に書き上げたオリジナル作品シリーズらしい)で、これも今年CDで再発されたものです(元のレコードは非常に高額/このシリーズもどんどん再発していってほしい)。これも1,2,3と同じで今とても好きな音像の数々でした。という感じで今年は特にモリコーネ周りをめちゃくちゃ聴いて、いろいろ買いましたので他にもあるのですがこれくらいにしときます。そしてモリコーネ先生ありがとうございました。これからも買い集めて、音源聴かせてもらいます。
5はaphexのEP。これと同じタイミングで出たLondon EPもよかったけれど、こっちのが好み。この手のタイプの音楽とその外側にある広大な領土のどちらも照らしているような、そしていつ造られたかがわからないような非時代性(もちろん100年以内のものだけど、ただこれが90年代なのか2010年以降なのかがわからない不気味さ)、そして才能の塊のような4曲。ひれ伏して踊りました。
6は毎度のアルゼンチンタンゴの御大、ダリエンソ。今レコードが手元になく、タイトル間違ってるかも。10インチレコードで、vol1~3までありそうで、その中の1,3を持ってます。タンゴはここ4年くらい集中して聴いてきましたが、その中でもこれほど気が利いたものはないのではという完成度の高さ。電撃のリズムといわれてますが、時に雷に打たれたような一瞬の停止や微細な変調を起こすアンサンブルは本当に素晴らしいし、こんなの現代はまずできないのでは。とどめは下記リンク映像にあるようなダリエンソ本人の指揮。演奏者側は地獄でしょうが、ここまで演奏に反映してくる指揮って他にあるのでしょうか?この人生でアルゼンチンタンゴが知れてよかったです。https://www.youtube.com/watch?v=b2UG6i5DQ6w
7はタイトル通りですが1950-1990くらいのニューエイジミュージックを本当の意味で幅広くとらえたものです。前から気になってましたが、ようやく今年購入。これを聴いて結構ニューエイジのこと勘違いしていたなと思いました。特に最初の方の音源が良く、雨音の中でゴング打ってるだけのとか、生楽器を含むアンビエントとか、この手の音楽なのに「聴きごたえ」があって今も継続して聴いてますOPNとかこれの進化系なのだなと思いましたが、僕はこのレコードにある音楽の方が好きです。
8は本当最近リリースされて、今も聴いてますが、完全に青天の霹靂級のベスト。世界各国の音楽、おそらくSP盤からデジタル化したものが100曲収録されたもので、デジタルリリースオンリーになります。いろいろこういうコンピはありますが、ここまで様々な国の”最高”の音楽を収録している盤は知りません。Dust-to-Digital、すごいレーベルなのだと思ってましたが、今後も追いかけたい。そしてこれ聴いていると=過去の音楽に触れていると、自分たちが音楽を創る必要があるのかとさえ感じますが、その問題に直面しながらも手と頭は動かしていきたいなと思いました。また熟読してませんが、デジタル資料も分厚く、各音楽の解説もちゃんとしてて、かつ良いデザイン。これはほんと買いだと思います。
あと下記のもよかったです。
YASUAKI SHIMIZU - MUSIC FOR COMMERCIALS
Vegyn - Only Diamonds Cut Diamonds
Lorenzo Senni - Scacco Matto
DJ Screw - The Legend
<本>
1. 郡司ペギオ幸夫 - やってくる (シリーズ ケアをひらく)
2. 綿野 恵太 - 「差別はいけない」とみんないうけれど。
3. 伊藤亜紗 - 手の倫理
4. 中島 敦 - 山月記
5. 古井 由吉 - 漱石の漢詩を読む
6. 東千茅 - つち式
7. クロード・レヴィ=ストロース - 火あぶりにされたサンタクロース
(われらみな食人種(カニバル): レヴィ=ストロース随想集より)
8. 大江健三郎 - 治療塔
1は最近自分が制作する中でうっすら考えているようなことがテキストでバシバシ書かれていて、実感としてとてもしっくりくる、かつその解像度をより深めてくれたものでした。折に触れて読み返したい名著だと思います。
2はタイトルで語弊が生まれそうだけれども、つぶさに「差別」ということやそれの発生の歴史、そして天皇制にいたるまでを分析した良著。例えば下記のテキストなど。
「異化」とはまさに差別批判のことだからである。 差別を差別として認識しない(できない) 私たちにいかに差別を認めさせるか。これが反差別的な言説や運動が持たざるをえない困難だった。しかし、その困難ゆえに、反差別闘争とは、新しい差別を発見する/発見させるという、すぐれて創造的な行為ともなる。それは、ある意味で、私たちの日常の生活や風景を「異化」させる行為でもある。「異化」とはある出来事から「既知のもの、明白なものを取り去って、それに対する驚きや好奇心をつくりだすこと」 だからである。
3は触覚、そして倫理についての本。ふれること/さわることの違い、またその倫理、他感覚と触覚の違いやその様々な実例が多く、楽器を触っているものとしても非常に勉強になりました。
4は今年二回上演に関わった小説で、そのテキストの多くを音声(小菅さんの声)から受け取りましたが、短編ながら本当に素晴らしく、また今読むことができて非常に良かったです。様々なものことの境目と進む時間と残念について。
5はその山月記の中でも登場し、興味をもった「漢詩」ということについて、古井由吉が漱石の漢詩(吐血し入院した際のものと最晩年のものの2つの時期)を分析したもの。個人的にですが、漢詩のルールや特性が非常に興味深く、また声に出して読むことを全体としているという意味での"音声"性と自分の最近考えがどこか共鳴していて、来年はもう少しこの辺り勉強したいと思います。
6はジンに近いものでしたが、自分の生活にもいろいろと変化がある中で読んで大変面白かったし、もともと都会で育っていない自分にとっては少し励みにもなりました。
7はその6の中の試みの始祖のようなものの代表者のように思いますが、そのストロースの最初期の論文らしいです。クリスマスに現れるサンタクロースという事象がどのような歴史から登場してきて、それをどのように受け入れる/拒否することのそれぞれの「むずかしさ」を書いているような。ストロースの良い読者では全然ないですが、最初期のテキストにその後の様々な問題意識が含まれているような。
儀礼や慣習を単なる過去の残存物とする説明はつねに不十分である。慣習は理由なしに消滅することも残存することもないからである。慣習が存続するとき、その原因は歴史の粘性よりも、それが果たし続けている機能のうちに求められる。そして、これこそ現代の分析が明らかにすべき課題にほかならない。
古代宗教と現代宗教の大きな違いは「異教徒は死者に向けて祈りを捧げるが、キリスト教徒は死者のために祈る」ことだと述べた。異教徒が死者に捧げる祈りとわれわれがクリスマスに実践する儀礼とのあいだにはおそらく大きな隔たりがある。われわれは毎年この時期に、しかも年を追うごとにますます──伝統的には死者の化身であった──幼な子に祈りを捧げるのだが、その祈りには数々の神頼みが混入している。
8は初めて読んだ大江健三郎。あらすじは「「選ばれた者」たちが「新しい地球」に移住した。「残留者」たちは、資源が浪費され、汚染された地球で生き延びてゆく。出発から10年後、宇宙船団は帰還し、過酷な経験をしたはずの彼らは一様に若かった。その鍵を握る「治療塔」の存在と意味が、イェーツの詩を介して伝えられる。」というものですが、残留者の「私(女性)」から描かれる視点と、様々な場所に散りばめられる作者の教養に感嘆する内容でした。次は万延永年のフットボールを読んでみたい。
<ライブ(配信含む)/映画/展覧会/行事/場所>
2/12 岡崎乾二郎「抽象のちから」@豊田市美術館
3/14 平倉圭×池田剛介@浄土複合
9/27 Phew [Vertigo KO] live stream
10/24 犬飼勝哉 短編演劇『給付金』live stream
11/12 遊星からの物体X @みなみ会館
喫茶大宮(京都・丹波橋)
喫茶凱旋(三重・明和町)
今年はほとんどの人と同様に年明けから自分の活動も含めて、行事が少なく非常に制限されたものでした。また配信をさしてみない性分であること、またコロナとは別のところで生活を変化させたので、特に「上演」というものについては自分のもの以外でなかなか触れることができませでした。来年はどうなるだろうか…
岡崎乾二郎さんの「抽象のちから」は今年一番こころ打たれた展覧会でした。平倉さんのトーク@浄土複合は昨年読んで素晴らしかった「かたちは思考する」の流れから。phewさんのwwwでのライブ配信は本当に配信しかやれないことが詰まっていて、またそれが演奏や音楽とも合わさって非常に良かった。正直いうとこれまで音源でしか聴いたことがなく、ライブをみたことがなかったのもあると思うのですが、みんなが言うほどしっくりこないというかどこか凄いかピンとこなかったのですが、こうやった身に迫る配信をみて、ようやくその異様さがわかった気がしました。犬飼勝哉 短編演劇『給付金』もライトながら、先のphewさんと同じく配信での妙味をたくさん感じました。引き続き応援してます。遊星からの物体Xは駆け込みでなんとか見れましたが、最高でした。密室での疑心暗鬼。今だといろいろ突き刺さりますね。喫茶大宮は昨年も書きましたが、今年も何度か行ってて昨年の記憶やインパクトをより更新したので、また再び。個人的にここは今が全盛期です(店の人は絶対にそう思ってないと思うけど)。感銘及び爆笑を受ける出来事が多すぎて、演劇から遠ざかってる理由のひとつになり得るくらいなのと、空間の設えとして今後の私の人生の目標です。喫茶凱旋は地元の隣町で偶然見つけたもの。この場所(結構僻地)に凱旋と名付けてしまっているところと、これまでもそしてこれからもしっかりと続いていきそうな堅牢なところに感銘をうけました(先の大宮とは違って、非常に真っ当な素晴らしい喫茶店です)。田舎のさして何もない国道沿いの喫茶店のホットケーキやチーズケーキに「凱旋」と焼き印が打たれていることについて。
という2020年でした。
あとこれもまた別でちゃんと書きますが、10月頃から地元である三重県と京都を行き来する生活を進めています。現状本当に半分半分くらいの割合でそれぞれの場所にいて、ここ数年はこのスタンスで生活(仕事)と表現みたいなものの間で実験をしようと思っています。結果として関西の皆さんにはある機会が減ってしまっているのですが、このご時世、会えないにせよ何かしら届けることはできるので、その辺りはまたかたちを変えて進んでいけたらと思います(おそらく来年からは三重の方から配信で演奏をお届けする試みをやっていく予定です。またライブはアバンギルドなどを中心としてできたら)。特にこのような生活圏の移動(引っ越し)や行き来を理解してくれた家族(主に妻)にはとても感謝しています。体調や人や街、文化についていろいろと思うこともあるので、その辺りを考えながら、来年も、おそらくこの状況をひきずっていくでしょうが、その中で考え、愉しみを得ていきたいと思います。関わってくれたみなさんありがとうございました。これから関わってくれる人も含めて、今後ともよろしくお願いします。
中川裕貴
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